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難民と入国管理について正確な報道を!6月6日放送「クローズアップ現代」について

2018年6月6日、NHK「クローズアップ現代」で放送された難民特集は、日本社会に住む難民申請者について誤ったイメージを伝える内容でした。また、多くの自殺者まで出している入国管理行政への批判的視点を欠く構成でした。出演者のコメント、とくにサヘル・ローズさんの冷静なコメントが、偏見助長を食い止め、報道番組としての品性を保っていました。しかし、番組全体の作りは極めてずさんでした。収容所で難民申請者に面会している#FREEUSHIKU にも、怒りが拡がっています。

 

番組には大きく分けて以下の三つの問題点があると思います。

 

第一に、今回の番組は「日本が本来認めるべき難民も認めていない」という基本的事実をあえて報じませんでした。

 

第二に、今回の番組は、名古屋入国管理局局長の発言を異なる視点をナレーションなどで対置することなくそのまま放送し、国連にも勧告を受けた入国管理局の深刻な人権問題を隠しました。

 

第三に、今回の番組は「就労目的の外国人による難民申請が増えている理由」を正確に報じませんでした。

 

私たちは、今回の放送で踏みつけられた難民申請者や入国管理局収容所に入れられた外国人の人権を#FREEUSHIKU で語り続けます。番組制作チームには、反省と自己検証を求めます。

 

三つの問題点を、さらに詳しく述べます。

 

第一に、今回の番組は「日本が本来認めるべき難民も認めていない」という国際的に知られた基本的事実をあえて報じませんでした。

 

今回の番組は、「就労目的の難民申請が増えて、難民制度の本来の目的から離れてしまった」というメッセージを繰り返し発しました。しかし、そもそも日本は、国際社会における難民制度の「本来の目的」を果たしていません。日本の入国管理行政の難民対応は、国際的基準や慣例から大きく逸脱してきました。これまで本来の仕事を拒否していた人が、「窓口に人が増えて仕事に集中できない」と言っているのと同じです。

 

番組中、武田アナウンサーと名古屋入国管理局局長は、「政治的迫害を受けていないのに」という言い方をしました。これは、「難民は政治的迫害を証明できる場合に限る」という日本の異常な方針のことですが、国際的には、紛争や人種差別によって国を追われた人は「難民」です。日本では「本来の難民」が認められていないのです。強制収容所に入れられている人も多くいます。日本の独自方針であるという解説が全くないため、視聴者にはその点が伝わりません。

 

国際的な難民の定義がナレーションされる場面もありました:「本来、難民とは、紛争や暴力のまん延によって迫害のおそれがあり、国を逃れた人々のことです」[3分9秒]。ところが、日本で難民申請する外国人について語る場面では、「政治的迫害を受けていないのに」という狭い定義に切り替えています。そして、視聴者にはこの切り替えの意味を説明しませんでした。

 

さらに今回の番組は、国際的な難民の出身国として「世界的に多いのが、シリアなどの国々。しかし、いま日本で難民申請が増えているのは、フィリピン、ベトナム、インドネシアなど、東南アジアの国ばかりです」とナレーションしていました。しかし日本では、シリアから逃れてきた方も難民申請を却下されています。基本的事実を視聴者に隠すべきではありません。なぜこのような詐欺的なナレーションにしたのでしょうか。

 

第二に、今回の番組は、名古屋入国管理局の藤原浩昭局長による異常な発言を、異なる視点をナレーションなどで対置することなくそのまま放送し、国連にも勧告を受けた入国管理局の人権問題を隠しました。

 

藤原局長の発言:[6:23]「申請の理由を見ると、借金に追われていますとか、いわゆる政治難民にあたらない理由で申請してくることが多くみられます。ほんとうに困って、あるいは政治的迫害を受けて、というものを見ることは、ほとんどありません。」

 

国連は、日本の入国管理局による法令違反者の無期限長期収容を拷問の一種として批判し、勧告を出しています。藤原局長が勤務する名古屋入国管理局でも、これまでに収容者によるハンガーストライキが起きています。ところが、今回の番組は、藤原局長にも職務上の責任がある人権問題に一切言及しませんでした。

 

先に述べたとおり、法務省や藤原氏が「政治的迫害」という言葉を使うのは、個人として政治的理由で迫害を受けていると証明できる場合以外は難民を認めない日本の独自方針があるからでしょう。藤原氏は、「政治的迫害」でなければ「ほんとうに困っている」人ではないと公共放送で断言しましたが、誰でも分かるとおり、それ以外にも「ほんとうに困」るケースはあります。紛争や差別などによる命の危険から逃れてきた人は、「ほんとうに困って」いないのでしょうか。貧困を逃れようとして借金を背負い国に帰れない人は「ほんとうに困って」いないのでしょうか。藤原氏が管理する強制収容所に無期限で入れられている彼・彼女らは、「ほんとうに困って」いないのでしょうか。「ほんとうに困って」いないなら、なぜ命がけのハンガーストライキが起きたのでしょうか。そういう方々を「ほんとうに困って」いないと公共放送で語ってしまう感覚の人が強制収容所のトップにいることは危険です。それを無批判に放送する番組も無責任です。

 

第三に、今回の番組は、「就労目的の外国人による難民申請が増えている理由」を正確に報じませんでした。

 

就労目的の外国人による難民申請が増えている理由は、(1) 深刻な労働者不足のために日本社会が外国人労働者を積極的に呼び込んでいるにも関わらず、(2) これまで日本政府が外国人労働者のための法制度を整備しなかったためです。(1)+(2)で、仕方なく難民申請が増えているのです。合わさらないと、こうした事態にはなりません。今回の番組は、(1)についてデータを示しながら、なぜか(2)を解説しませんでした。これまで正式に労働者として認められてきた高度人材と永住ビザ所持者について説明する際、高度人材(学識経験者や医師など専門的知識や技術をもつひと)を「労働者(高度人材)」と表示し、「"難民ビザ"で働く人々」を「労働者」とは別枠として表示したことも、「労働者」のための法制度に欠落があることを見えにくくしました。

 

現実に背を向けた入国管理政策のために、現在、就労目的で日本を目指す高度人材以外の人々が、悪質なブローカーに借金を負わされ、日本で違法就労し続けるしかないケースも増えています(番組で紹介された仲介業者さんのことではありません)。外国人労働者に依存していながら、その事実を認めないことで、悪質ブローカーに暗躍の余地を与えてしまっているのです。番組6分14秒で、いま最も多い難民申請理由が「借金返済」だから、たいていは難民ではなくて偽装だろうという示唆がなされていますが、「借金返済」を難民申請の理由として挙げた人のなかには、日本に行くために悪質な借金を負わされ、労働者として保護されず劣悪な環境・賃金で働こうとしている人もいるのです。日本の経済が使っている外国人労働者のための法整備が遅れていることを国民が知らなければ、番組のテーマである偽装申請問題も解決しません。番組は、難民申請者を悪く描くのでなく、こうした状況を視聴者に伝えるべきでした。

 

なお、番組内では難民申請して就労する外国人の「月収30万円」「年商3億円の会社経営」といったケースがあえて紹介されていましたが、#FREEUSHIKU で訪問している収容者の多くは、「健康保険もなく子供を病院に行かせられない」「就労許可もなくどうやって生きて行けばよいのか」といった貧困問題も抱えています。